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    今頃になつて、男はさう訊き、盛子がそれに答へる前に、ひとりでうなづいていた。

    すると、徳次はびつくりしたやうな眼で房一を見やつた。

    「どういふことでせうね、まあ!」

    今や事情は一変してしまつた。かつて御ぎよし易い息子だつた練吉は、正文の常識では計りきれないやうな矛盾、我儘を次々とひき起して、何とかして押へようとかゝつている正文は殆ど息子の意のまゝになつているのだつた。

    「ふうん」

    と、房一は練吉の顔を見て思ひ出したらしく、

    房一は先に立つて行つた。居間も座敷も畳が入れかへてあつた。だが、家具らしいものの何一つないこの大きな部屋には何かちぐはぐな乾いた空洞のやうな空気があつた。部屋の向ふには裏手の築地で四角に仕切られた庭があつた。そこにも目につくやうなものは何もなかつた。土の上に新しく削りとつた雑草の痕跡が一杯にのこつていた。その急に日向ひなたに出され、人の足に踏まれて顔をしかめたやうな土のひろがりの向ふには、低い築地とその際にたつた一本だけかなりに大きな無花果いちじゆくの樹がぼつさりと茂つていた。その葉裏にかすかに色づいた円つこい果の色だけがふしぎと生ま生ましい。

    「それでは、又あらためて伺ひます」

    「おい、やつは所長だぜ。まだ新任で、来たばかりなんだ。――行かう!」

    道平はゆつくりと首を動かして訊いた。

    と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。

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